dancyu2011年9月号特集
愛知県 稲沢市 木村農園の金時生姜ジャム
「はじかみ」と呼ばれる葉生姜のなかでも、ひときわ色が美しく、
香り高いものが、小生姜の一つの金時生姜でつくられる「矢生姜」だ。
夏は、特に露地物の「葉生姜」も食べられるという、木村農園を訪ねてきた。
わたしは梅雨明けから出まわる葉付きの生姜、が大好物で生味噌をつけてかじるとしゃきっとした刺激で夏の気だるさが吹っ飛ぶ。醤油のさっと漬けや酢漬けのさっぱり味もいいし、天ぷらも手が止まらないおいしさ。
生姜は熱帯アジア原産で、爽やかな風味や辛味はジンゲロールやショウガオールなどの成分から生まれる。そして、これらには血管を拡張する作用があり、冷え性に有効なのである。
日本へは中国から伝わり、解毒や消化促進のある効用は漢方薬のほか、料理の薬味として親しまれた。古くは、紅色の根元はまるで恥じらったようだと、「端紅(はしあか)」から転化して「はじかみ」と呼ばれる。根元の端(はじ) っこを噛むという意味ではないので念のため。
色、辛、香三拍子揃った逸品は、知る人ぞ知る稲沢市特産品
生姜には楽しい呼び名がいろいろある。「谷中」は江戸の生姜産地だった谷中の町名に由来し、品種名にもなっている。
品種名を「金時(きんとき)と名付けた、いかにも真っ赤っかなイメージの生姜は、小生姜の系統で根は小粒だが、葉柄のつけ根が鮮やかな紅色を帯びている。天然色素のアントシアニンが豊富なのだ。
そして、この金時生姜ほどの爽快な辛味、豊かな香りをわたしは知らない。アクがなく、やわらかで、筋っぽさがないから、ぽりぽりといくらでも食べられる。まさしく逸品である。
金時生姜はジンゲロールなどの有効成分が他品種より多く、加熱加工すると効果が増すというデータもある。さらに冷え性対策や、現代人に多い低体温症状のコントロールまで期待できるのだから、大きくいえば、医食同源のお手本のような存在なのである。
なお、あまり知られていないが、金時生姜の乾燥品は戦前から欧米に輸出されていたそうだとなれば英国やフランスのカレーパウダー、ウスターソース、ジンジャービスケットなどに使われていたとも推測できる。誇らしい話ではあるまいか。
そんな知識を分けてくれたのは木村憲政さん。名古屋から北西へ車で小一時間の稲沢市で、金時生姜の生産から加工販売までこなす気鋭の農家である。
木曽川東岸の稲沢市平和町は濃尾平野の中央部にあたり、古くから苗木、植木、料理に添えるツマ野菜の生産に特化してきたが、そこに昭和20年代から加わった特産品が金時生姜である。
金時生姜の導入が成功した理由の一つは、この生姜に適した土が近くにあったことだ。もともとは木曽川の川砂だったという砂壌土である。この土で種生姜を育てると、ただでさえ赤い金時生姜の茎のつけ根がさらに赤みを増すのだ。成分のミネラルの中に、生姜を赤くする特殊なものが含まれているらしい。
また、平和町は促成栽培によるツマ野菜の歴史が長いだけに、農家は手間と工夫で勝負する促成栽培の技術を身につけている。木村さんの場合、そのセンスを受け継いだことが成功に大きくつながった。
【 この続きはdancyu本誌(2011年9月号)をご覧ください。】
(撮影・川島英嗣 文・向笠千恵子)
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